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「入国」と「上陸」の違い

これは「法律の勉強あるある」だと思うのですが、似たような言葉の意味の違いが掴めず、判ったような気になってしまい一向に理解が深まらない、という事態が発生することがあります。「物権」と「債権」、「取消し」と「撤回」、「取消し」と「解除」、「催告」と「請求」etc...私も行政書士試験合格を目指していた頃は苦労しました。申請取次業務においても同様で、前述の通り「ビザ」と「在留資格」、「滞在」と「在留」等など、とかく法律用語は紛らわしいものが多いですよね。それだけ微妙な意味の違いがあることの表れだと思います。そこでここでは、私が新規の申請取次業務研修で知った、「入国」と「上陸」の違いについてご説明したいと思います。

領土(陸)+領海+領空=領域

 それではご説明に入る前に、別画面にて国土交通省国土地理院が公開している「日本全図」をご覧下さい。⇒詳しくはこちら

 これから地理の復習をしましょう。「領域」または広義の「領土」とは、日本の主権(=国の統治権)が及ぶ範囲のことで、狭義の「領土」(「領陸」とも言います)「領海」「領空」で構成されています。「領土(陸)」は日本列島及び島しょ部で構成される陸地のことです。「領海」とは領土(陸)の沿岸に沿った帯状の海域のことで、「領海及び接続水域に関する法律」により、原則基線※1から12海里(約22.2㎞)まで、例外として特定海域※2においては3海里(約5.6㎞)までとされています。

※1領海や排他的経済水域(EEZ)を測定するための起算点となる線のことです。海岸線とは異なります。

※2国際航行を定められた範囲で自由に行える海峡のことで、宗谷、津軽、対馬東及び西水道、大隅の計5海峡。

「領空」とは、領土(陸)と領海の上方の空間のことで、古くは無制限でしたが、現在は条約により宇宙空間の領有が禁止されているため、「宇宙」は領空に含まれない、とされてはいるのですが、じゃあ「宇宙」と「領空」の境界はどこ?となると、実は明確な定義はないらしいのです。「じゃあ大気圏に入ったら空気があるんだから宇宙じゃない=領空でいいんじゃないの?」と、ガンダム世代の私はつい妄想してしまうのですが。

日本の領海か領空に入ることが「入国」

 以上を踏まえて、いよいよ本題です。「入国」とは、簡単に言えば「日本の領海か領空に入ること」です。ですから、例えば各都市を周遊する豪華客船や国際線の飛行機の乗客は、日本の領海(空)に入った時点で「入国した」ことになります。法令を見てみましょう。

入管法

第三条 次の各号のいずれかに該当する外国人は、本邦に入つてはならない。

一 有効な旅券を所持しない者(有効な乗員手帳を所持する乗員を除く。) 

二 入国審査官から上陸許可の証印若しくは第九条第四項の規定による記録又は上陸の許可(以下「上陸の許可等」という。)を受けないで本邦に上陸する目的を有する者(前号に掲げる者を除く。)

「旅券」とはパスポートのことです。「乗員手帳」(船員手帳とも言います)とは乗員、すなわち船舶又は航空機の乗組員に発給される、雇用及び雇止め証明書のようなもので、パスポートに準ずる扱いとなります。ですから、旅券を持たずして入国した場合は「不法入国」となるわけですね。

日本の領土に足を踏み入れることが「上陸」

それに対して、「上陸」とは文字通り「陸に上がる」こと、すなわち「日本の領土に足を踏み入れること」です。前述の入管法三条二項によれば、たとえパスポートを所持していたとしても、最初からイミグレを通過せずして上陸するつもりの密航者や偽装難民は、日本の領海や領空に侵入する前から「不法入国者」扱いとなってしまいます。

 研修時の私は「飛行機が着陸した時点で『上陸』じゃないの?足は触れてなくても実際に陸の上にはいる訳だし」と考えたのですが、入国審査を受けてイミグレを通過して空港の外に出るまではあくまで船舶等の中にいる=足を踏み入れていないから「上陸」ではない、と考えるようですね。船においても同様で、一旦下船したとしても、イミグレを通過して港の施設から一歩出るまでは同様とみなされるようです。そういえば、私がシンガポールからインドネシアのビンタン島に上陸したときも、イミグレを通過するまでは自由行動ができませんでしたから。

入国審査官は「入国審査」をしません?!

 実は上の文章、一か所わざと間違えて打ち込んだんですがお気づきになりましたか?

 

下から5行目の真ん中あたり、「入国審査を受けてイミグレを…」の部分です。よく考えてみてください。イミグレに進むはるか前に、領海(空)にはすでに入っているわけですから、審査する以前に「入国」してますよね?  改めて審査要ります??

そうです、入国審査官が審査するのは「入国」ではなくて「上陸」なのです。ここでも法令を見てみましょう。

入管法

第6条 本邦に上陸しようとする外国人(乗員を除く。以下この節において同じ)は、有効な旅券で日本国領事館等の査証を受けたものを所持しなければならない。⇒以下省略

2 前項本文の外国人は、その者が上陸しようとする出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官に対し上陸の申請をして、上陸のための審査を受けなければならない

 とこのように、入管法においては「入国」と「上陸」は同義語ではないのです。「密入国」というのはあくまでパスポートを所持しないで領海(空)に入ることであり、ビザ(観光目的のビザなし渡航を除く)や在留資格を所持せず(空)港の外へ出たり、イミグレを通過しないで国内に潜伏していたとしたら、それは「密上陸」(そんな言葉はもちろんありませんが)ですし、「不法入国」と「不法上陸」も意味が違います。船舶等(特に漁船や貨物船)の乗組員が、上陸許可証を所持しないで陸に上がって買い物をしたり、食事をしたりする場合も「不法上陸」です。

ある意味海洋国ならでは

 ここからは私の個人的な意見ですが、これらの定義の違いが発生するのは海洋国(島国)としてやむを得ない、と思っています。われわれ日本人は、日本国内にいる限り陸路で国境を超える経験ができません。これがEU加盟国や北米大陸でしたら、それこそ高速道路の料金所を通過するくらいのノリで簡単に国境を超えることができますから、「入国」した時点で「上陸」と同義であり、わざわざ区別する必然性を感じないでしょうが、周りを海に囲まれたわが国では「日本に入る」定義を二つ準備しておいた方が様々なルールを決める上で何かと都合が良かったのでしょう。

 事実、入管法の礎となる「出入国管理令(昭和26年政令319号)※3」が制定される前、不法入国(現在の入管法で言うところの「不法上陸」)事件は朝鮮半島からのものが最も多く、昭和21年には何と年間1万7千人以上も検挙されたとのことです。当時は「入国」という法概念がなかったため、密入国者が上陸するまでは手出しができず、しかも一旦上陸してしまえば逮捕は著しく困難となりました。そのため、出入国管理令にて「入国」という法概念を定め、いわゆる「不法入国」の段階で取締りができるようにした、というのが経緯のようです。結果、出入国管理令施行後、海上保安庁は領海内での不法入国者の発見や追い返し等に活躍されたとのことです。

参考:「警備警察50年◆現行警察法施行50周年記念特集号◆(警察庁)第2章~警備情勢の推移~」
⇒詳しくはこちら

※3この条文の初めには「内閣は、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和20年勅令第五百四十二号)に基づき、この政令を制定する。」とあり、これはいわゆる「ポツダム政令」のひとつです。公布が昭和26年10月4日、施行が同年11月1日とあり、この年の9月8日のサンフランシスコ講和条約締結直後のことでした。

 以上、「入国」と「上陸」の違いについてお話ししてまいりましたが、実務において「入管で入国審査」が厳密に言えば間違いであったとしても、それで何か不都合が生じますかね?そもそもこれをご覧になった方の中には「『入国審査』は聞いたことがあるが『上陸審査』なんて聞いたことがない」とお思いの方もいらっしゃるでしょう。これはある意味業界用語的なものだと思っていますので、私も業務においてはそこまで神経質に言葉を区別はしません。たまに居酒屋トークのネタのひとつとして披露するくらいです。皆さんにもそのようにご理解&お使いいただければと存じます。

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