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ここでは今回の改正で新設された「配偶者居住権」についてご説明します。この権利が認められた背景には、残された配偶者の住まいについて著しく不都合な事態を招きかねないという現行の制度の不備がありました。それを新しい権利を認めることによって、配偶者の方にも安心して余生を過ごしてもらえるようになりました。
それでは、なるべくかいつまんでご説明いたします。以下のケースを例に考えてみましょう。
夫の残した財産 | 自宅4,000万円 現金2,000万円 | ||
法定相続人 | 妻、長男、長女の計3名 |
パターンA:自宅を代金分割(自宅を売却して現金化した上で分割)したとすると
⇒現金が6,000万円に
相続人 | 妻 | 長男 | 長女 |
割合 | 1/2 | 1/4 | 1/4 |
額 | 3,000万円 | 1,500万円 | 1,500万円 |
この場合、確かに「妻」には十分な現金が相続されることにはなりますが、肝心の住まいが無くなってしまいます。
パターンB:自宅の全てを妻が相続したとすると
⇒差額の2,000万円を長男及び長女に価格賠償する義務が生じる
相続人 | 妻 | 長男 | 長女 |
割合 | 1/2 | 1/4 | 1/4 |
額 | 自宅- 1,000万円×2 の支払義務+1,000万円 =3,000万円 | 500万円+ 妻から1,000万円=1,500万円 | 500万円+ 妻から1,000万円=1,500万円 |
この場合、今度は奥様には自宅が残るものの、ではお子さんたちに財産分与する2,000万円分の原資はどうするの?という問題が生じます。この事態を避けるため、「妻」が受取人の死亡保険金を組んでおくことがよく行われています。「死亡保険金は特段の事情がある場合は特別受益※に準じて持ち戻しの対象となる」という判例(平成16年10月29日最高裁決定)はあるものの、上記のケースにおいては「特段の事情がある」とは認められないと思いますので、準備さえしておけば価格賠償は可能です。
※特別受益…被相続人から相続人に対して遺贈された財産、または婚姻や養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与された財産のこと。
でも、これらはあくまで「準備をしていれば」、今風に言えば、無くなった旦那さんの「終活」の成果であり、そのような準備なしにいきなり相続を迎えてしまえば、結局奥様は家とお金、どちらを取るか?という重い選択を迫られてしまうことには変わりませんでした。
今回の民法改正では、このような事態を回避することを目的とした新たな条文が加わりました。まずは改正民法1037条において、「配偶者短期居住権」という権利が新たに定められました。これにより、奥様が旦那さんが無くなったときに建物に無償で住んでいたとき(要するに旦那さんと同居していたとき)は、基本的に相続開始の時から6か月間はタダでその家に住み続けることができるようになりました。
改正民法1037条(配偶者短期居住権)
1 配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合には、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める日までの間、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の所有権を相続又は遺贈により取得した者(以下この節において「居住建物取得者」という。)に対し、居住建物について無償で使用する権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合にあっては、その部分について無償で使用する権利。以下この節において「配偶者短期居住権」という。)を有する。ただし、配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき、又は第891条の規定に該当し若しくは廃除によってその相続権を失ったときは、この限りではない。
一 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から六箇月を経過する日のいずれか遅い日
二 前号に掲げる場合以外の場合 第3項の申入れの日から六箇月を経過する日
2 前項本文の場合においては、居住建物取得者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない。
3 居住建物取得者は、第一項第一号に掲げる場合を除くほか、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができる。
さらに、改正民法1028条において、「配偶者居住権」という権利も定められました。これによると、自宅の評価額の中から配偶者居住権に相当する額を設定した上で、遺産分割又は遺贈(遺言書でする贈与)を根拠として奥様がその権利を取得することができます。
パターンD:自宅の評価額4,000万のうち、配偶者居住権を2,000万円と評価した場合
⇒自宅と現金で別々の分割となる
相続人 | 妻 | 長男 | 長女 |
割合 | 1/2 | 1/4 | 1/4 |
自宅 | 配偶者居住権 2,000万円 | 所有権 1,000万円 | 所有権 1,000万円 |
現金 | 1,000万円 | 500万円 | 500万円 |
一見するとパターンBと変わっていないように思われるかもしれませんが、パターンBと違い、家を残したうえで、尚且つ現金も残ることになります。これだとどっちつかずの状態は回避できますよね。
ですが、この表を見てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、このパターンですと自宅が三者間での「共有」となりますので、事実上奥様が存命中はこの自宅の処分は不可能、ということになります。また、その奥様の残りの人生によっても自宅の使用期間は変わってきます。終身期間とすべきか、期間を区切ったほうが良いか、これはケースバイケースと言えるでしょう。従いまして、配偶者居住権の評価額をどのように設定するかが非常に重要となります。
改正民法1028条(配偶者居住権)
1 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りではない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
そしてさらに、今回の改正では、自宅の生前贈与の制度が大幅に緩和されました。それまでは旦那さんが自宅を奥様に生前贈与又は遺贈した場合、この自宅(財産)は前述の「特別受益」に当たり、一度相続財産に戻される(これを「持ち戻し」と言います)ことになっていました。税制面での優遇は確かにありますが、相続人の間とのバランスによってはこのような事態も想定できました。
それが今回の改正で、「結婚後20年以上の配偶者に対する自宅の贈与であれば、この分は相続財産にカウントされず(つまり「特別受益」には当たらない)、相続財産とは切り離して扱うことが原則となりました。
パターンE:妻に自宅を生前贈与した場合
⇒自宅は全て妻が相続、現金のみが分割となる
相続人 | 妻 | 長男 | 長女 |
割合 | 自宅+ 現金の1/2 | 現金の1/4のみ | 現金の1/4のみ |
自宅 | 4000万円 | - | - |
現金 | 1,000万円 | 500万円 | 500万円 |
このパターンですと、奥様には従来の法定相続を超える額の財産が行き渡るものの、相対的に長男及び長女の取り分が少なくなりますね。とはいえ、今まで以上に奥様の不都合が解消しやすい状況は整ったといえるでしょう。ご家庭の実情に合わせた、相続人の皆様全員が納得のいく遺産分割を是非ご準備いただければと存じます。
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